ベトナムから帰ってきたときは、仕事へ繋げるためにきりっと、レシピへ役立たせるためにぐるぐると動く脳味噌も、今回はのんびり「整理整頓」モード。
あのビストロの鶏肉は実に美味しかったなぁとか。料理屋で惹かれるメニューには、そういえば「蒸し煮」というスープ風のものが多かったなぁとか。普段は手に取らないハーブの、今も鼻腔に残っている気品ある強い香りとか。そういえば、シーフードを林檎と一緒に蒸していたきゅっと甘酢っぱい仕上がり、あれは自分の料理に取り入れてみよう、といたく感銘を受けたこと。
家路へついてからも、旅はいつもふわふわと漂う。
だから私はいつも、美味しかった記憶をすぐさま整理して、とりあえず形にしてみます。そうそう、この感じを美味しいと思った。そんな現実的に然るべき自己満足で、浮ついていた心がきちんと静まって、非日常的だった旅も日常へ馴染んでいくような気がするのです。
仕事の料理はシリアスです。シリアスな料理は、いかなるときもぴりっと引き締まって気持ちが良い。しかし不謹慎かな、仕事を離れた道中に遭遇する、シリアスでない料理ほど楽しいことも確かです。
作ったり食べたりという行為は、真剣でなければないほど夜に降る雪のようにしんしんと積もり、いつしか心の糧になる。そういうところに、自分の旅好きは生じているのかなとも思います。