パリでは、エスニック料理にもたくさん惹かれました。
運河沿いにある、小さなカンボジア料理店。粉雪舞う寒空の日にも、ランチ時にはぎゅうぎゅうの相席満席、店外にまでお客の溢れる頼もしい食堂。
ワインに侵されつつある胃をローカルビールで一休み、「ボブン」という不思議な名前の、焼き肉と生野菜を甘酢っぱいタレで和えた米麺をいただきました。
ところでベトナムには、「ブンボ」という、その名も形もとてもよく似た食べものがあります。大きな丼をせっせと平らげながら、ぼんやりそんなことを考えていました。
こちらはアフリカ的エスニック料理、鶏肉のタジン。
とある戸外のモロッコ料理屋台、ぺらぺらのビニールテントの下、顔の横まで簡易暖房を引っ張り寄せながら食べました。タジンというのは、どうやら肉と野菜を煮込んだシチュウのようです。ソースやスパイスの塩梅が絶妙、塩漬けレモンがさっぱりと口を潤し、個人的には今回の旅で特別賞をあげたい1品。
奥の皿は、最後まで何かわからなかった。かつおぶしの入ったパイ、みたいなもの。何を食べているかわからない。というのは、しかし旅の大いなる快感でもあります。
パリへ着いた夜、在住友人がベトナム料理屋へ連れて行ってくれました。初めての食事がベトナム料理なんて……とグズグズしていたのに、渡されたメニューブックを読むときの、あの途方もない安堵感といったら!
大好きな魚の甘酸っぱいスープを頼んだら、トムヤムクンまであと少し。という雰囲気の代物が出てきたのですが、なぜか滅法に美味しくてびっくりしました。ベトナムもタイも中国も日本も、だいたい一緒くた。そういえば、稲荷寿司の横に生春巻きを並べる総菜屋さんもあったっけ。
そんな奇妙なアジア料理模様を、友人は「メランジェ」と表現していました。おそらく「まぜこぜ」と訳すのであろうこの言葉には、なんとも楽ちんで緩い心意気しか感じられませんが、パリにおけるアジア料理のメランジェな具合を、私はわりに気に入っています。