七夕にちなんで、ちょっとした再会がありました。といっても色恋沙汰ではありません、バーの店主と出会った話。
3年前、西麻布のベトナム料理屋で働いていた頃、お店にいらっしゃったお客様から1枚の名刺をいただいたことがありました。
「関西の方ですか?私、京都でベトナムバーをやっているんですけど、よかったらきてくださいね」
たぶん、そんな感じだったと思う。ベトナムバーってなに?京都にそんなとこあったっけ?料理の仕事をしているとこういう約束はわりあい頻繁に交わされるし、果たせないうちに消えてしまうことがしばしば。いただいた名刺も引越しと一緒にどこかへ紛れてしまったのですが、でもなぜか私は、その1枚のカードの記憶をずっと大切にしまっていました。いつか行ってみたいな、いつか行ってみよう、と。
そんなわけで、昨晩ようやく「ベトナムバー」のカウンターへ腰掛けることができ、店主とは3年越しの再会を果たしました。
ベトナムバーというのがどういう種類のものなのか、実のところよくわからなかったけれど、とにかく店主はベトナムが大好きで、そうしてとても気持ちの良い喋り方をする人でした。アオザイを身に着けてお酒を作るなんて、なんだか本当にベトナムのスナックみたい。思わず、ふふふ。と嬉しくなってしまう。
古ぼけた丸いスツール、お客がひしめきあう狭い店内、見慣れた洋酒のボトルが並ぶ壁、煙草の煙とか汚れた換気扇とか、焼酎の水割りをちびちび舐めながらそういうものを眺めていると、私はすっかり寛いだ気分になりました。
だいたい私は、1人でぼけっとお酒を飲んでいるときがいちばん好きです。わいわいもしっとりも、緊張とか肩肘張ったりとか、誰かの悩みも噂話もあまりいりません。お酒も難しいものを飲まないから、惹かれるカウンターというのは大概、いかにぼけっと飲めるか。によって決まる場合が多いのです。
帰り際、次は1人で来てもいいですか。と私が聞くと、店主は煙草をふかしてにっこり微笑み、今度はベトナムのお話をしましょうね。と言いました。素敵です。