お酒を飲むほうの人種に属していると、だいたいそのうち、店構えだけを見ただけで「自分好みの酒屋」というのがわかるようになります。
例えば私の場合、だらしなく垂れ下がった暖簾の奥に覗く、安いお酒の匂いが充満しているようなカウンターを持つ居酒屋へ、すうっと惹きつけられる傾向にあるようです。何かがとても懐かしくて、途方もなく安心する。がらがらと引き戸を開けた瞬間に、ああここは良い飲み屋やなぁとぴんとくる。一目惚れのようなものです。
先日、大阪でおでんを食べたのですが、そのおでん屋がいわば前述の典型のような店でした。
狭い店内、扉とカウンターの間へ縮こまるように腰掛けるお客。カラフルなセーターを素敵に着込み、次から次へと大雑把に注文をこなしていくお母さん。エコーがかったみたいに聞こえる、酔っ払いたちの自分勝手な会話。長時間煮込まれて、すっかり茶色くなった蒟蒻とか大根とかたまねぎとか。目の前にどんどん並べられてゆく、どっしりしたビールの空き瓶とか。
そんな空気に包まれながら、お姉ちゃん、あんたほんまによく飲むねぇ。と呆れるように笑うお母さんの声を聞きました。隣で友人の吸う煙草の煙が、今日はなんだかやけに喉に痛いと思いました。でもビールが美味しいからまあどうでもいいか、とも。
後日、職場の先輩から、そこは大阪では非常に名の知れたおでん屋なのだと教えていただきました。知らんのによくも、うまい具合にあんなとこ入ったなぁと。
同じ場所で50年。大らかに緩やかに、ずっとずっと営まれてきた日々の酒盛り。こういう酒屋に出会うたび、私はすっかり嬉しくなってしまいます。酒飲みで良かったと、それはもう堂々と胸を張って、きっぱり言い放てるような気がするのです。