旅に出たいという切望は、それ以上でもそれ以下でもないと思っていました。
でも、旅に出るタイミングはきちんと折り重なった末に訪れるもので、どこかへ行きたいと願っていても、それが訪れなければなんとなく腰が上がらない。1人で旅をするようになって10年近く経ちますが、「あ、今だ」とすとんと腑に落ちる瞬間を感じるようになってきました。
そろそろベトナムへ行かないの?という声を裏切って、新年は明けた日からフランスへ行きます。初めての気分と食べものに、もっか胸を膨らませる日々。
ヨーロッパ行きの安いチケットは探し求めるだけでも一苦労、ましてやその機中なんて、きっと心も体も胃袋もクタクタになるのだと考えると、ほんの少しうんざりしてしまう。それでも引き寄せられるのは、「あ、今だ」のおかげにほかなりません。東京に暮らしていた頃、コマーシャルフィルムで何度も聞いたセリフ、「そうだ京都、行こう」みたいに。
パリには、不思議な縁で繋がっている人たちが暮らしています。日本人だったりフランス人だったり、親しい人もいればまだ親しくない人もいるし、年齢も職業もてんでばらばら。でもみんな、私がベトナム料理を生業にしていることだけは知っている。不思議だなぁと思う。
外国で暮らすって、一体どんな風なのだろう。私は、そんなぼんやりした誰かの日常を空想しながら、もうすぐ非日常的な旅に出るのです。