今日は、父の話。
私が父を尊敬しているところ。それはまったく奇妙に聞こえるかもしれませんが、いつもウィスキーを飲みつつ料理しているところ、です。
父は昔から料理が得意で、例えば休日には、家族10人分の晩御飯を一手に引き受けるような人でした。豪快な豚カツや鰹のたたき、素晴らしく細い人参の千切りが添えられた鯵の南蛮漬け、昼間から何時間も煮込んで作るビーフシチュウやおでん。特別な日となれば、手巻き寿司にバーべキュウに串カツ。こだわっているようで大雑把な料理たち。台所における父の佇まいは、「男子厨房に入る」を見事に体現しています。
子は親の背を見て育つ。とはよく言ったもので、生まれて26年経った今、親娘揃って台所へ立つこともずいぶん多くなりました。そんなとき、私の片手には缶ビール、父のそばにはバーボンロック。食後に愉しむような強いお酒を、酔いも回らないうちからすいすいと飲んでいます。そうして顔色ひとつ変えることなく、肉を焼くオーブンをのぞいたり、複雑な煮物の味付けなんかやっている。渋いよなぁと思わずにいられません。
先日、父は52歳になりました。
さんざん迷った挙句、今年はウィスキーを飲むためのグラスを贈りました。その日も父は台所に立ち、「ちょうど、ロックグラスが全部割れたところなんや」と言い、見事なまでにパラパラと炒まった炒飯を一緒に食べました。
まだ明るい夏の夕方、ちょっぴり洒落たロックグラスを片手にガスコンロへ向かう。時折、換気扇の下でぼんやり煙草を吸っていたり、神妙な面持ちで包丁を研いでいたり。こんな父親の姿はすごく良い。
そんなふうに感じることができるのは、やはり料理人となった娘だけの特権でしょうか。